歌が苦手であることの代名詞のように使われる言葉「音痴」。ちょっとした歌う場面でうまくいかなかった経験から「私は音痴なので恥ずかしい」「音痴って治るの?」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、実は音痴の捉え方もさまざま。今回は、歌が調子外れに聞こえる原因と改善方法について説明します。
俗にいう「オンチ」と、生理的な要因で音の聞き分けが難しい「音痴」には違いがあるよ。今回は、ちょっとだけ「オンチ」についてほりさげて説明するね
そもそも音痴とは?
一般的に、音痴(おんち)とは、音に対して感覚が鈍い人のこと。
辞書によると「大脳の先天的な音楽機能不全」とあり、もともとの意味では、先天的に音を聞き分ける能力に欠ける状態や人のことを指します。しかし、そこから俗にいう「音に対する感覚が鈍く、歌を正しく歌えないことや人のこと」として使われることが多くなりました。
そして、さらに「何か対して感覚が鈍いこと」(「方向―」など)に使われるようになった言葉といわれています。
音痴という言葉は、他に定着した言葉がないために使用されているものの「痴」の持つ意味合いがネガティブなため、適切な言葉への呼び換えが望ましいとされているそうですよ。
とはいえ…仕方ないので「オンチ」という言葉を使って説明するよ
オンチは環境によるところが大きい
「オンチは生まれつき」や「絶対なおらない」といわれることも多いようですが、ほとんどの場合そんなことはありません。
それは、多くのオンチと捉えられる状態は、先天的な理由ではなく、今までその人が成長してきた環境に原因があるためです。
例えば、子どもは母親の胎内にいるときから聴覚があり、さらに生まれてから非常に多くの音の情報を受け取り感覚を覚え成長していくといわれています。特に3歳くらいまでに急激に発達するので「耳の黄金期」と呼ばれることも。
音痴だと思い込んでいる人の多くは、この耳が著しく成長する時期をはじめ、その後の生活の中で音楽に触れる機会が少なかったり、歌に親しむ経験があまりなかったりしたことが考えられます。
今までの経験の中で、音感があまり身に付かずにきてしまった可能性がありますが、通常、人は自分の声を聞きながらそれをコントロールして出しているので、音を聞いて声をコントロールする能力は持っています。
ですから、くり返しくり返しトレーニングを続ければ、音に対する感覚は改善する可能性があるのです。
オンチの種類
オンチにはさまざまな種類があります。ここでは、大きく4つに分けて説明します。
①音の聞き取りに原因がある(感覚面)
音の聴き取りが原因で、うまく音程が合わせられないタイプ。
例えば、音の高さを聞き分けることが苦手だったり、音を記憶するのが苦手だったりするのがこれにあたります。音そのものを理解することが苦手なので、正しい音程を理解して周囲と同じように合わせることが困難です。
自分が合っていないと気づいていないケースも多く「自覚はないけどオンチと言われたことがある」方は、この音程の聞き取りが原因になっていることが多いといわれます。
②発声に原因がある(運動面)
音は聞き取れるし記憶もできるけれど、実際声を出そうとすると調子外れになってしまうケースもあります。このタイプは、正確な音をイメージすることはできるのですが、声を正確に出すことが苦手です。
例えば、高い音を出したいのに、その音程の音が出なくて音程が下がってしまうことがあります。他にも、発声が不安定なためにメロディが棒読みのようになってしまう、極端に声量がないなども挙げられます。
③リズムのとり方に原因がある
音程は合っていても、リズムがズレてしまい歌がうまく聴こえない場合もあります。
音楽の要素は、音程の高低差だけでなくテンポや強弱などが絡み合っているため、音程が正しくても、タイミングがズレてしまうと曲調と合っていないように聞こえてしまうものです。
また、リズムを感じ取ることが苦手なため、リズムをとることに必死になってしまい、出だしのタイミングを見失ったり、息がうまく吸えないなどでうまく歌えないなどのケースもあります。
④原因が複合している
①〜③の要因を合わせて持っているケースも多くあります。
発声や音感は、経験や身体能力によるところが多く、1つの原因だけでなくさまざまな原因が絡み合っていることがほとんど。
その中でも、自分が特にどこが苦手で、それを補うにはどんなことをしたらよいのかを捉え、対処していくことが改善していくうえで大切です。
苦手なところを改善するには
苦手なところを克服していく方法を紹介します。
音楽に触れる時間を増やす
オンチをなおすためには、耳をうまく使えるようになることがなによりも大切です。音程が分からないのは音程を探っていないため、聞くことの経験が不足しているためです。
まずは、お気に入りの歌にじっくり耳を傾けるだけでも第一歩。歌が上手いといわれる人は、聞くこともたくさんしているはずです。
聞きとった音程に合わせて声を出す
歌ってみたい曲のメロディをよく聞いて、できるだけ真似して一緒に歌ってみるのも効果があります。
自分で歌ってみて、聞き取っている音程と自分の出している声の音程が合っているのかを確認してみましょう。聞こえてくる音に自分の声を合わせていく作業をくり返していくとだんだん音感がついてきます。
一曲が難しい場合は単音でも。アプリや楽器などで音を出して、それを聞き取ったものに合わせて、声を正確に出せるようにしていく方法もあります。
録音して聞いてみるのもいいですが、判断が難しい場合は、はじめは視覚的にとらえられるアプリなどを利用してみるのもひとつです。
重要なのは、音程を聞いて覚えること。自分でフィードバックしながら調整してみることです。はじめは音程の感覚がつかみにくいかもしれませんが、感覚を身体に染み込ませていけば、音程の感覚が身に付いていきます。
ボイストレーニングする
音のイメージがしっかりあるのに、うまくそれを声にできない場合は発声器官を鍛えることで改善します。
例えば、音程をコントロールする筋肉を鍛えたり、共鳴のコツをつかんだりして声質や強弱に対応する力をつけていくなど。
声がコントロールできない場合は、自分が思ったように発声に関する筋肉が動いてくれないことが原因なので、そこにボイストレーニングなどでアプローチしてけばよいでしょう。
リズムにのってみる
好きな音楽に合わせてリズムをとってみるのも有効です。
リズムの音(ドラムや打楽器など)に耳を傾けて音楽を注意深く聞いてみるだけでも、発見があると思います。そして、ダンスまでいかなくても、そのリズムにのってみるだけでも効果があります。
ゲーム感覚で、メトロノームやアプリなどのリズムが出るものに合わせてみる方法もあります。例えば、120という一般的なリズムで、歩いてみたり、手拍子を打ってみたりして正確さを求めてみるのもおもしろいですよ。案外、テンポがとれなかったり…(^-^;
大切なのは、身体を通して自分が経験することを重ねること。よく聞いて、リラックスしてリズムにのることをくり返してみましょう。
楽しく練習する
歌や発声は、メンタル面が大きく影響します。ネガティブな気持ちでいるより、前向きな気持ちでいた方が、それだけで発声によい効果がでるという研究結果もあるそうです。
「自分の声が嫌い」「オンチだから歌うのが苦手」と歌うことを避けてしまうと、歌う頻度は減っていくでしょう。そうすると、さらに発声に必要な筋肉が弱ったり、硬くなったりして悪循環に陥りやすくなります。
いろいろな経緯があったにしても、この記事を読んで下さってるということは、歌に興味があるということ。苦手なものと構えるのではなく、親しみを込めて歌うことを楽しんでいってほしいと思います。
音痴は改善する可能性があるもの
歌のうまい下手については、捉え方次第なところもあり解明されていないことも多いものです。ですが、オンチを改善したいと思うのは自然なことかもしれません。
昔はなんとなく決めつけ感があった「オンチは歌が下手」や「オンチや歌が下手は生まれつき」という考えももう古いといわれています。
コツをつかんでいけば誰でも「オンチ」を改善する可能性があります。最終的には自分が楽しむことを一番として継続していくことが重要ですね。
参考:米山文明著「声と歌にもっと自信がつく本」王様文庫 AKIRA著「奇跡のボイストレーニング」つた書房「視覚フィードバックによる音痴の治療」村尾忠廣著